横浜地方裁判所 平成10年(ワ)1642号 判決 2000年1月26日
原告
真下修一
右訴訟代理人弁護士
中村右也
被告
大和市
右代表者市長
土屋侯保
右訴訟代理人弁護士
大澤孝征
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告に対し、四八三〇万三四四〇円及びこれに対する平成八年六月一三日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
大和市所在の土地の持分(四分の一)を有していた原告は、ほかの共有者とともに右土地を売却したが、その際、土地の買主の代理人から、被告大和市には大和市開発等事業指導要綱(以下「本件要綱」という。)が設けられ、そこに公共空地及び納付金に関する規定が置かれ、買主は取得土地において開発事業を行う場合には被告に納付金を納めなければならないため、その分代金を下げてもらう必要があると言われて、右土地を売却することになった。そこで、原告は、右の定めが違法であったとして、右納付金と改正後の規定(以下、改正前の本件要綱を「旧要綱」、改正後の本件要綱を「新要綱」という。)による納付金との差額の四分の一(原告の持分割合)につき、被告に対し、主位的に国家賠償法一条一項に基づき、予備的に民法七〇九条に基づき、損害賠償及びこれに対する右売買契約締結日の平成八年六月一三日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた。以上が本件事案の概要である。
一 基礎となる事実(証拠の掲記のない事実は当事者間に争いがなく、証拠の掲記のある事実は主にその証拠により認定した事実である。)
1 原告
原告は、平成八年六月一三日当時、大和市内に別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)の共有持分四分の一を有していた。本件土地のその他の共有者は、真下ふさ江、真下昌江、安藤美佐枝であり、その共有持分は各四分の一であった(原告と合わせた四名を、以下「本件売主」という。)。(甲五の二)
2 本件土地の譲渡
本件売主は、平成八年六月一三日、本件土地上に区分所有建物を建築及び分譲する目的を有するA及びB(以下、Aと合わせて「本件買主」という。)に対し、本件土地を四億四五〇〇万円で売り渡す旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。(甲四)
3 大和市開発等事業指導要綱と本件における計算上の納付金額
被告は、本件売買契約が締結された当時、大和市開発等事業指導要綱(旧要綱。乙二)を定めていた。旧要綱によれば、宅地開発事業及び中高層建築物を建設する事業(以下「開発等事業」という。)を施行しようとする者(以下「事業者」という。)は、旧要綱三条(3)及び一五条二項所定の計画人口(計画戸数に3.5を乗ずるが、既存住宅の建て替えであるときは既存戸数に3.5を乗じた既存人口を控除する。)が六〇人以上に達する場合、計画人口から六〇人を控除して得た人口一人当たり三平方メートル以上の公共空地を設けなければならないと定められていた(一四条一項(2)号)。また、旧要綱によれば、右に該当する場合であっても、市長が公共空地の設置を不必要と認めたときには、指定価格(地価公示価格を基準として定めた価格とし、商業地域の場合一平方メートル当たり八三万四〇〇〇円)を公共空地の面積に乗じて得た金員(納付金)を被告に納付することで足りると定められていた(一四条二項(2)号、同条三項)。
本件土地の場合、右規定により計算すると、公共空地を提供する場合は二一九平方メートル(乙三により、計画戸数四〇戸、既存人口七人であると認められる。したがって、乙二により、計画人口が一三三人と算出され、公共空地は、右の一三三人から六〇人を引いた七三人に、一人当たり三平方メートルを乗じて、二一九平方メートルと算出される。この面積は、本件土地の仮実測面積738.49平方メートルの29.65パーセントに相当する。)、納付金を提供する場合は一億八二六四万六〇〇〇円となる。
4 建設省通達
建設省建設経済局長及び住宅局長は、本件売買契約の締結の約七か月前に当たる平成七年一一月七日付けで、「『宅地開発等指導要綱の見直しに関する指針』について」と題する建設省経民発第四五号・建設省住街発第九四号通達(甲三。以下「建設省通達」という。)を都道府県知事宛に発出した。右通達によれば、公園、緑地、広場(以下「公園等」という。)は開発区域面積の三パーセントかつ一人当たり三平方メートルを確保することを基本とするが、中高層住宅において一人当たり三平方メートルの基準を一律に適用することは過大な負担を課する結果となる場合が多いことから、一人当たりの面積基準を設ける際にも、開発区域面積の六パーセント以上の公園等の確保を求めることは適当でないとされた。
5 本件要綱の改正と新要綱に基づく算出値
被告は、平成九年一月一七日、本件要綱を改正した。右改正後の本件要綱(新要綱)の該当規定によれば、計画人口は計画戸数に、既存人口は既存戸数に各2.7を乗じて算出することとされ、本件土地についてこれを当てはめると、その計画人口は102.6人となり、提供すべき公共空地の一応の面積は127.8平方メートルとされた。しかも、新要綱においては、開発区域の面積の六パーセントが公共空地の上限とされたため、最終的には提供すべき公共空地は44.3平方メートルとなる。また、納付金に換算する場合の指定単価は一律に一平方メートル当たり一五万六八〇〇円とされたため、本件土地に当てはめた場合の納付金の額は計算上六九四万六二四〇円となる。
6 本件買主の現実の納付金
本件買主は、新要綱の施行前の平成九年一月二九日、被告との間で、本件における納付金を五〇〇万円とする旨の協定(以下「本件協定」という。)を締結した。
二 主要な争点
1 旧要綱に基づく納付制度の違法性の有無
2 旧要綱に基づく納付制度と原告の損害との相当因果関係の有無
三 当事者の主張
1 原告の主張
(一) 旧要綱に基づく納付制度の違法性(争点1)
(1) 旧要綱に基づく納付制度によれば、本件土地について開発等事業を行う本件買主が提供すべき納付金の額は、前記一3のとおり、一平方メートル当たり八三万四〇〇〇円となる。これは、当時の神奈川県のほかの都市における納付金の額が、用途地域の別を問わず一律に一平方メートル当たり一〇万円前後とされていたのと比較すると、著しく高額である。前記一4のとおり、建設省通達においても、事業者の負担が不当に加重なものとならないようにとされており、被告自身も、平成九年一月一七日には、旧要綱を改正し事業者の負担を軽減する措置を採り、さらに、本件土地について、同月二九日、本件買主との間で、納付金につき本来その時点で施行されていた旧要綱に基づく算出値である一億八二六四万六〇〇〇円となるところを、五〇〇万円とする旨の協定を締結している。これは、被告の開発指導行政がでたらめであることを証明するとともに、被告自身、旧要綱に基づく納付制度があまりに過酷かつ常識外れであったことを自認するものにほかならない。
被告は、旧要綱に基づく納付制度を定めることにより、このように過酷な公共空地又は納付金を提供すべきことを事業者や土地所有者等に押しつけたものであり、これは、地方財政法四条の五(割当的寄附金の禁止)、二七条の四(住民に対する市町村の経費の転嫁禁止)及び地方税法七〇三条の三(宅地開発税)の規定に反し、また商業地域にマンションを建設することを禁止することを意味し、違法である。
(2) 被告は、本件要綱は行政内部の心得にすぎず、住民に対する拘束力を持つものではないと主張する。
しかし、Aが本件以前の平成七年六月五日商業地域に所在する別紙物件目録(二)の土地(以下「別件開発土地」という。)を買い受けてこれを開発するに当たり、被告は、Aに、四、五坪の公園用地を提供させたほか、旧要綱に基づく公共空地の代わりに、市街化調整区域内に所在する別紙物件目録(三)の土地(以下「別件提供土地」という。)をAの代理人であったCに提供させている。これは、被告とCとの不正な密約によるものであり、同時に被告が旧要綱に基づく納付制度の実際の運用に当たって、有形・無形の圧力により、事業者をこれに従わせていることを示すものである。
また、被告は、旧要綱を書面にしたものや開発等事業指導要綱早見表等を作成し、業者のみならず一般市民にも旧要綱の内容を周知させている。原告が被告の窓口に二度訪れた際にも、旧要綱と右早見表を問題なく受領できた。そのとき、被告の窓口の担当者は、事業者には旧要綱に定める納付金を払ってもらっている旨を述べた。このような状況であるから、善良な市民が旧要綱に基づく納付制度に従わなくてはならないと考えるのは当然である。
したがって、この点に関する被告の主張はいずれも失当である。
(二) 旧要綱に基づく納付制度と原告の損害との相当因果関係の存在(争点2)
被告の都市部開発指導課や都市整備部公園緑地課の担当者は、平成八年初めころ、本件土地を購入してその開発を検討していた本件買主の代理人であったD(非法人)やCの担当者に対し、開発に際しては旧要綱に基づく公共空地の提供又は納付金の支払が必要となる旨を説明した。原告は、Dの担当者であったEから右公共空地及び納付金の制度の存在並びに購入代金を四億円程度にしかできない旨の説明を受け、本件売買契約の締結日には被告の建築指導課において旧要綱の内容を自らも確認した。そのようなことから、原告は、旧要綱に定める計算上の納付金相当額を控除した金額で本件土地を本件買主に売却せざるを得なくなった。
そして、仮に被告が前記一4の建設省通達の内容を知った後に直ちに本件要綱を改正していれば、前記一5のとおり計算上の本件土地の納付金の金額は六九四万六二四〇円となっていたはずである。
したがって、原告は、本件売買契約締結当時施行されていた旧要綱に基づく計算上の納付金の金額である二億〇〇一六万円(計画人口の算出に際し既存住宅の戸数を考慮しない場合の金額)から、新要綱に基づく納付金の額である前記六九四万六二四〇円を控除した金額の四分の一に相当する四八三〇万三四四〇円の損害を被ったものであり、旧要綱に基づく納付制度と右の原告の損害との間には相当因果関係が認められる。
2 被告の主張
(一) 旧要綱に基づく納付制度の適法性(争点1)
本件要綱を含め、いわゆる開発指導要綱は、行政内部の心得(実質的意義の訓令)、すなわち行政指導を行うに当たっての基準、行政機関が守るべき原則を定めたものであって、拘束力は行政機関に及ぶものにすぎず、直接住民に及ぶものではない。そして、本件要綱は、法の不備を補充しつつ、乱開発等による地域社会の混乱と住民の生活の破綻を防止するために必要不可欠な緊急避難的な措置として、事業者の自由に処分できる法益につき任意の譲歩を求める趣旨のものである。したがって、旧要綱に基づく納付制度は、右のような運用(任意の合意に基づく納付)がされる限り適法である。具体的な運用を見ると、本件要綱に基づく行政の指導に対し、事業者側の事業展開の見通し、経済状況やそれについての判断、開発目的等、様々な要素を含んだ事業者側の都合によって指導に対する態度が決定され、折衝の末、任意に応ずる範囲や程度が合意されていくのが実態である。ちなみに、平成七年度及び同八年度においては旧要綱に基づく納付制度の基準どおりの協力が得られた事例はなかった。本件において、被告と本件買主は、旧要綱に基づく納付金を五〇〇万円とする旨の本件協定を締結したが、これは、旧要綱に基づく納付制度が拘束力を持たないことの証左である。
よって、旧要綱に基づく納付制度は、住民に対する法的拘束力及び事実上の拘束力を持つものではなく、適法である。
なお、原告は、Aが別件提供土地を提供したことを問題とするが、本件とは無関係である。しかも、別件提供土地は、旧要綱に基づく正規の協定に従って提供されたものであり、密約などはない。また、原告は、旧要綱の抵触する法規として地方財政法二七条の四を挙げるが、この規定は本件の納付金の転嫁について定めるものではない。
(二) 旧要綱に基づく納付制度と原告の損害との相当因果関係の不存在(争点2)
本件売買契約においていかなる動機及び経緯によって本件土地の代金が定められ、購入した者がいかなる目的に購入土地を使用するか等について被告は全く関係がなく、これについて損害賠償を求める原告の請求は失当である。
原告の主張は、旧要綱に法的拘束力があると原告が誤解したことを前提とするか、又は被告が旧要綱に事実上の拘束力を認めるに等しい違法な行政指導を行っていることを前提とした立論であるが、前者であれば原告が責任を負うべきであり、後者であればそのような事実はないから、いずれにしろ被告に責任はない。
また、本件買主が旧要綱に定められた納付金を被告に納付するため、本件売主との間ではいわば本来の代金から右納付金相当額を控除した額をもって売買代金を定めながら、現実には旧要綱所定の納付金を被告に納付せず、被告には五〇〇万円のみを支払ったとすれば、それは、本件買主の原告に対する詐欺に当たる。したがって、原告は、本件売買契約を取り消すか、少なくとも本件買主が支払わなかった部分について不当利得として本件買主に返還請求をすれば足りる。原告は、被告の選択を誤ったというほかない。
よって、旧要綱に基づく納付制度と原告主張の損害との間には相当因果関係は認められない。
第三 争点に対する判断
一 旧要綱に基づく納付制度の違法性の有無(争点1)
1 問題の所在
原告は、旧要綱に基づく納付制度が過大な納付金の支払を事業者等に押しつけたものであり、地方財政法四条の五、二七条の四、地方税法七〇三条の三に違反する等と主張する。右の主張は、旧要綱に基づき事業者に提供することを求める公共空地の面積又は納付金の額が過大であることとその提供要請が強制的であることの二点を問題とし、それが右規定等に反するというものと思われる。ところで、右各規定は金銭を正当な理由なしに強制的に徴収することを禁止する趣旨を定めるものであるし、一般に任意の寄付が禁止されるものではない。したがって、被告に不法行為の原因となる違法な行為があるかの見地から、まず、旧要綱に基づく納付制度が金銭を強制的に徴収するものといえるかを検討する。
2 本件要綱の性質、内容及びその運用の実態
前記基礎となる事実及び証拠(甲一の一ないし三、甲二の一ないし三、甲三、甲一一・一三・一四、甲一五の一・二、乙一ないし五・七・八、証人小方明、原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 本件要綱の法的性質
本件要綱は、その法形式の面から見ると、法律でもなく、条例でもなく、行政指導の指針を書面にしたもので、被告の行政を進めるに当たっての内部的な指針であり、事業者等の外部の者に対して法的拘束力を有するものではなく、外部の者には任意で応じてもらう場合に初めてその任意の合意により効力を生じるものである。
(二) 本件要綱の内容
本件要綱は、その内容面から見ると、被告が、都市計画法の趣旨に基づき、行政指導の一環として、宅地開発事業及び中高層建築物を建設する事業の適正な施行を指導することにより、自然の破壊、災害の防止及び都市施設の整備を図り、もって地域住民の良好な生活環境を確保することを目的として(一条)、制定されたものであり、そこにおいて、事業者は、一定の公共空地又は納付金を提供すべき旨が定められていた(旧要綱一四条・一五条、新要綱一五・一六条)。
そして、本件土地を対象として、Aが計画する開発等事業を行う場合には、その当時施行されていた旧要綱一四条・一五条により、公共空地を提供するときは二一九平方メートル(本件土地の仮実測面積738.49平方メートルの29.65パーセント)、納付金を提供するときは一億八二六四万六〇〇〇円(一平方メートル当たり八三万四〇〇〇円)が必要とされた。これは、被告の近隣諸市のいわゆる開発指導要綱上の定めと比較すると、著しく高額な納付金等を要求するものであった。すなわち、金銭換算をする場合、藤沢市は最大で一平方メートル当たり一一万六〇〇〇円、相模原市で一二万円、町田市で九万五〇〇〇円、平塚市では八万円とされているにとどまった。このように被告における旧要綱に基づく公共空地の負担が大きかったのは、被告の人口密度が高く、一人当たりの緑地公園が不足しており、一定の開発規模の事業について、より多くの公共空地が必要とされていたからであった。また、被告の場合、納付金による場合の指定価格は時価を基準としていたため、商業地域についてはその他の用途地域に比較して高額な納付金が必要とされた。これは、地域の用途の純化を進めるため、総合的な都市計画ないし都市整備の観点から、人口密度が高くなるマンションが商業地域にできるだけ建つことがないようにするためであった。
(三) 旧要綱の運用状況
平成七年度及び同八年度に被告の商業地域内における開発等事業として申請のあった一七件の物件のうち、旧要綱に基づく要件に該当するとして公共空地の提供方が指導されたものが五件あった。そのうち、一件は右提供に全面的に非協力であり、残りの四件は部分的な協力があったにとどまった(うち一件が本件土地に関するAのもの。)。しかも、部分的に協力のあった四件のうち一件は、用地提供及び協力金の支払に応じず、事業者自らが管理するプレイロットと呼ばれるスペースを設置するにとどまるものであった。このように、右二か年度において旧要綱の規定どおりの納付の協力が得られた事例はなかった。
以上のとおり認められる。
3 旧要綱に基づく納付制度の適否
2のような事実、とりわけ、旧要綱に基づく公共空地及び納付金の提供に関する履行割合が低調であること、本件においても、本件買主が五〇〇万円を納付する旨の本件協定を締結するに至っていることからすれば、旧要綱は、2(一)の建前どおり法的拘束力のないものとして任意の協力に基づき運用され、事実上の拘束力もないものにとどまると解される。また、そのような内の旧要綱が書面化されていたのは、被告が行政指導として公共空地又は納付金の提供を求める際に、その指導を統一的に行うための指針として運用されていたにすぎないと解される。旧要綱やその早見表は公開され、住民に周知が図られていたが、これも、行政指導の基準を住民に広く公開し、行政の透明性を高めるという趣旨のものにすぎず、これによって住民に旧要綱に基づく納付制度の遵守を事実上強制することとしていたとの事実を認めることはできない。
したがって、被告が本件売買契約の締結当時近隣諸市と比較して著しく高額な納付金の提供を定めていたことは、強制力を伴うものではないから、原告に対する不法行為責任をもたらす違法行為ということはできない。
4 原告の主張に対する判断
原告は、「本件以前に、被告は、Aの代理人であったCとの間で不正な密約を行い、旧要綱に定める公共空地の代わりに、別件提供土地を提供させる等している。このように、被告を含め、各行政主体は、いわゆる開発指導要綱の実際の運用に当たって、有形・無形の圧力により、事業者を要綱に従わせている。」旨を主張する。
しかし、証拠(甲一〇の二、乙八)及び弁論の全趣旨によれば、別件提供土地は、Cが平成七年六月二六日付けの売買によって前所有者である稲内健作から譲り受けたものであり、Aが同月三〇日付けの大和市長との間の協定書に基づき、別件開発土地の開発に当たり、公共施設(公園)用地として提供することとし、同年七月二五日付けの寄付によって大和市に所有権が移転されたことが認められる。そして、これが、被告のAに対する有形・無形の圧力によって強制的に行われたものであるとの事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
しかも、そもそも旧要綱は、2(三)のとおりの運用の実態にあるから、旧要綱が拘束力を持つものであるとの原告の右主張事実は、認められない。
二 本件におけるその他の論点(その他の違法性、損害、因果関係の有無)
1 問題の整理
一3のとおり、旧要綱に基づく納付制度は、法的にも事実上も拘束力がないから、違法ということはできない。しかし、原告は、旧要綱に基づく納付制度があったために本件買主に本件土地を安く売らざるを得なかったと主張するところ、その趣旨は、仮に旧要綱に拘束力がなかったとしても原告は拘束力があると誤解し、そのために本件土地を安く売却して損害を被ったという点にあると解される。
そこで、被告が旧要綱を設け、これにより原告のような土地の売主をして旧要綱に拘束力があると結果的に誤解させるに至らせたとすると、現実の行政指導の在り方ともあいまち、そのことに違法があるか、またそのようなことに過失があるか、仮にあるとして原告に損害があるか、仮にそれらが肯定されるときに、右の過失と原告の損害との間に相当因果関係があるかを検討する必要がある。
2 旧要綱に拘束力があると誤解することの当否
旧要綱は一3のとおり法的拘束力も事実上の拘束力もないといってよいものの、いやしくも市が要綱という名称を付し、「指導」という文言はみられる(乙二の一条)ものの、特に「事実上の拘束力もなく、専ら任意の合意が成立することを希望するものである。」といったことを明示するわけでもなく、これを書面化し対外的にも公開している以上、事情を知らない一般の市民からすれば、法律や条例と同じとまでは考えないにしても、少なくとも事実上の何らかの効力はあると考えるのも無理からぬことと思われる。原告が後記3(二)(1)のとおり綾瀬市の公務員をしていた経験があるということも、右の解釈を強化こそすれ、右の解釈を否定することに結びつくものではないと解される。そうすると、結果的に旧要綱に事実上の拘束力があると誤解した者との関係では、被告が単に旧要綱を定めて公開しているという事実と要綱についての被告担当者の説明如何では、そのことに違法性及び過失があると評価される場合もあり得るというべきである。
3 旧要綱に拘束力があると仮に結果的に誤解させるに至らせた場合におけるそのことと売買代金との関係
(一) 売買価格の決定因子
本件売主は、旧要綱に拘束力があると結果的に誤解したとすると、開発等事業を行うAの立場を想定する際に、土地の購入代金、納付金の支払及びマンションの建築費という費用がかかると考えることにもなる。しかし、だからといって、納付金の額をそっくり本件土地の購入代金の減額で手当するという論理必然性があるわけではなく、事業者としては土地はあくまで時価で購入するのが原則であり、仮に納付金分の出費を手当するにしても、建築工事代金を安く済ませる方法もあり得るし、建築したマンションの分譲価格を高くすることも考えられる。事業者としては、そのような諸々の要素を考慮して、開発すべき土地の購入価格を希望するわけであろう。もし、本件売主の方で希望の売値がAの申し入れた買値と折り合わなければ、売買を不成立にすることもできるのであるから、仮に旧要綱に基づく納付制度が拘束力のあるものと本件売主が結果的に誤解するに至っても、当然にその納付金額分だけ本件買主の購入価格が減額されると考えるのは合理的ではない。
ただし、そのような納付金という出費がない場合には、それがある場合に比べるとそれだけ出費が少なくなるから、事業者は、購入価格について多少は売主の希望を聞き入れる蓋然性があるようには思われる。逆にいえば、本件売主は、旧要綱に拘束力があると誤解すると、本件土地の譲渡価格が要綱所定の納付金そのものではないにしてもその存在の影響を多少受けると考えることになり、それだけ、本件土地の売却価格のなんらかの低下要因となるというべきではあろう。つまり、拘束力があると誤解することにより、本件売主は、損害を被る可能性があるということになる。
(二) 本件売買契約成立の経緯
そこで、本件売買契約の締結に際し、本件買主は納付金の支払の必要の有無及び程度をどのように本件売主に説明し、それが売値とどのように関係づけられたか、原告が本件納付金の支払が必要であるとどの程度誤解したのか等、本件売買契約成立の経緯を検討する。
前記基礎となる事実、一2の事実及び証拠(甲一の一ないし三、甲四、甲五の一ないし三、甲六ないし八、甲一一ないし一四、甲一五の一・二、乙二・三・五、証人小方明、原告本人)によれば、以下の事実を認めることができる。
(1) 原告
原告は、現在無職であるが、昭和五〇年から同五五年ころ、綾瀬市役所に勤務していた。
(2) 本件売買契約の端緒
原告は、平成四年一〇月から平成五年八月にかけ、貸地としていた自己所有地の借地権を借地人から買い取り、その購入代金として、ダイヤモンド抵当証券株式会社(以下「ダイヤモンド抵当証券」という。)から、四回に分けて総額三億九〇〇〇万円を借り入れた。その返済期限が、平成八年四月一五日と同年一〇月一五日に到来するので、その返済資金を調達するため、母親や姉と共有していた本件土地を売却しようと考え、平成七年ころ、株式会社大東商事(以下「大東商事」という。)の岩崎清一(以下「岩崎」という。)に、本件土地の売買の仲介を依頼し、岩崎は、和光不動産こと松本金三とともに、本件土地の買主を探した。原告は、本件土地を坪単価約三〇〇万円、総額約六億六〇〇〇万円で売却することを希望していた。
(3) 本件土地購入に関するA側の動向
Aの代理人であるCは、平成八年二月二六日、本件土地をAの分譲マンション事業用地として四億四〇〇〇万円で買い付けるため、大東商事に売買の取りまとめを依頼した。
(4) Eの説明内容
原告は、平成八年三月初めころ、岩崎から、Aが本件土地を買いたいと言っているが、被告においては旧要綱に基づく納付金が高額なので、Aの希望購入価格は坪単価約二〇〇万円である旨の話を聞かされた。原告は、直接買主に会うことを希望し、同月一五日、Eとダイヤモンド抵当証券の社員である市村が、原告宅を訪れた。このとき、Eは、本件土地であれば約三五戸のマンションを計画できるが、三五戸の場合、大和市では納付金が約一億五〇〇〇万円となり高額となってしまうので、買値を約四億円にしたい旨及び旧要綱に定める納付金の計算式についての説明をした。また、Eは、役所とのトラブルが起きるなら手を引く旨を原告に述べた。
(5) 旧要綱の内容の確認
原告は、平成八年三月二二日、被告の窓口に赴き、Eの示した旧要綱の内容を確認するため、旧要綱の写しを受け取り、旧要綱について説明を受けた。その際、原告は、Eから役所とのトラブルが起きるなら手を引く旨を言われていたことから、余り強い印象を持たれないように、納付金というのは払わないといけないものですかと簡単に尋ねた。これに対し、担当者は、これで払ってもらっている旨の説明をし、原告は、ああそうですかと答え、早々に引き上げた。このとき、原告は、被告の担当者に対し、本件土地についての納付金が一億五〇〇〇万円になるとの説明を本件買主から受けていることは話さなかった。
原告は、同年四月二日から同年五月一日にかけて、隣接諸市である厚木市、海老名市、藤沢市、横浜市、相模原市、座間市、町田市及び平塚市の実情を調べたところ、被告の旧要綱がこれらの隣接諸市と比較して極めて高額の納付金を定めていることを知ったが、前記のとおり、Eが役所とのトラブルが起きるなら手を引く旨を述べていたことから、被告に苦情を言わなかった。
(6) 売買代金の交渉
原告は、平成八年四月二七日、大和市の駅近くの喫茶店「プラムツリー」で、岩崎とEに会った。このとき、Eから、本件土地の売買代金を四億四三〇〇万円とする旨の合意書の案を提示された。右案には、本件土地の買主が旧要綱に基づく納付制度に従うことなどが条件として明記されていた。原告は、右案に対する返事を留保した。
原告は、同月三〇日、プラムツリーでEと会った。このとき、原告は、納付金が一億五〇〇〇万円もかかるのでは代金の上乗せは一〇〇〇万円が限度と考え、一〇〇〇万円の上乗せを頼んだところ、Eは検討してみる旨の返事をした。
(7) 合意書の作成
原告は、平成八年五月一日、プラムツリーでEと会った。その結果、売買代金を二〇〇万円増額して四億四五〇〇万円とすること、売買は本件土地の買主が旧要綱に基づく納付制度に従うことを条件とすること等を合意した。原告は、同月一〇日、右の合意を内容とする、Eが作成した合意書を岩崎から受領して持ち帰り、本件土地のほかの共有者の押捺を受け、同月一四日、和光不動産に右合意書を届けた。
(8) その他の購入希望者の存在
平成八年六月初めころ、旧要綱によって納付金を納める必要のない本件土地の個人の購入希望者が見付かっていた。右購入希望者は、約四億八〇〇〇万円で買うということであった。しかし、原告は、前記のような高額の納付金を被告が取得する理由はなく、いずれ裁判をするなどして、原告自身が取り戻すことができるものと考えていたので、その意味では本件買主の方が本件土地に高い値段を付けたものと考え、また、右個人の買主の意向もこの段階でははっきりしたものではなかったので、結局、本件買主に売却することにした。
(9) 本件売買契約の締結及び残金の受領
原告は、平成八年六月一三日の本件売買契約の締結直前の午前一一時ころ、被告の建築指導課に赴き、旧要綱の内容、特に一四条三項の指定価格が変わっていないかを担当者に確認した。これは、納付金の金額が少なくなっていた場合には、本件土地の売買代金を上げてもらうためであった。このとき、担当者は、旧要綱の内容は変わっていない旨の回答をした。原告は、念のため、平成八年分の旧要綱と早見表をもらった。
原告は、同日午後一時三〇分ころ、三菱銀行大和支店の二階応接室において、本件土地を、A及びB(本件買主)に対し、四億四五〇〇万円で売却する旨の売買契約(本件売買契約)を締結した。本件売買契約には、旧要綱一四条の適用除外、すなわち納付金の納付による公共空地の提供義務の免除の措置を受けることができない場合、本件買主は本件売買契約を解除できる旨が明記されていた。このとき、計画戸数が三五戸から四〇戸に増えていたので原告はおかしいと思ったが、トラブルなく売ることが先決と思い、本件売買契約書に署名した。
その後、本件売主は、本件土地の境界を確認し、平成八年一〇月一五日、売買代金の残金の支払を受けた。
(10) 最終的な納付金の金額の決定
本件買主は、平成八年六月二〇日から平成九年一月二九日にかけて、被告と旧要綱に基づく事前協議をした。本件買主側の交渉担当となったのは、Cの代表取締役であったFとDのEであった。被告は、旧要綱に従い、公共空地の提供を要請したが、A側はこれに応じず、納付金の全額提供についても、経済状況の悪化を理由に応じなかった。そこで、被告は、旧要綱に基づく納付制度の指針には遠く及ばなかったが、行政指導の限界という形で、やむを得ず、平成九年一月二九日、本件買主との間で、本件における納付金を五〇〇万円とする旨の協定(本件協定)を締結した。
原告は、本件土地に関する納付金が五〇〇万円となったことを、平成一〇年三月ころ、被告の担当者から聞いたので、Eに接触をした。しかし、原告は、AやEに対して、話が違うとして、納付金が低くなった分、売買代金を上げて、その分を支払うようにという話まではしなかった。
以上のとおり認められ、これを左右する証拠はない。
4 旧要綱に基づく納付制度に拘束力があると結果的に誤解させるに至らせたとするとそのことと売却代金の減額との相当因果関係の有無
(一) 時価との差額の有無
右3のとおり、本件土地を本件売主の希望する坪当たり三〇〇万円(全体で約六億六〇〇〇万円)で購入する希望を有する者はいなかったのであるし、本件買主の代理人であるEからも六億六〇〇〇万円という数字が出たわけではない。そして、本件買主とは別の買手で、共同住宅建設目的ではなく、納付金の支払を要しない者の買受希望価格は四億八〇〇〇万円というのであるから、本件土地の時価はその程度と考える余地も十分にある。すなわち、本件土地の時価が六億六〇〇〇万円程度であるという原告の主張の前提の事実がまず認められず、本件売買契約における価格である四億四五〇〇万円は時価といっても良い金額である可能性がある。
(二) 価格決定における本件買主の影響度
本件買主の代理人であるEが原告に述べたのは、計画予定の共同住宅の戸数が三五戸で納付金が一億五〇〇〇万円程度であるから、買値を約四億円にしたいということであった。ところで、Eは仲介人として被告にもよく出入りしている者であり、C及びDは、各地方公共団体の担当部署との折衝を代理して行うことをいわば職業として行っている専門業者であり、各地方自治体の各種要綱やそれらの法的性質について知悉していた(証人小方明)。つまり、Eらは、旧要綱に事実上の拘束力もなく、過去の折衝の経験から旧要綱に基づく算出値よりも相当に低額な金額の納付で足りることを知っていながら、売主の原告には安く売ってもらうために旧要綱どおりの金額を持ち出して交渉していたのであった。旧要綱に拘束力があると正面から明言してはいないから、積極的に原告を騙したとはいえないかもしれないものの、相当巧妙に交渉を運んだものということができる。
(三) 価格決定における原告の影響度
(二)のようにEらが巧みに交渉を運んだものであるところ、反対にこれに対する原告の応接は一見する限りEらと正反対のもので、巧みではなかったといわざるを得ない。時価が五億五〇〇〇万円のところ、納付金が一億五〇〇〇万円必要であるから、購入価格はそれだけ減額して四億円としたいという申し入れは、あまりに買主側の事情一辺倒の話で、このような話には売主は通常応じないはずである。Eの話が虚実織り交ぜた巧妙なものであったとしても、あまりに自己の都合ばかりなのであり、その説明の前提である時価が五億五〇〇〇万円というのがおかしいことは、原告としても、別の買い手の四億八〇〇〇万円の申し入れ価格から十分にうかがい知ることができたというべきである。したがって、原告はEの話のおかしな点を指摘して、時価(例えば四億八〇〇〇万円)そのものでの売買を希望し、だめならこれを拒否すればよいのに、Eの説明を安易に真に受けたように思われるのである。
しかも、原告は、被告の窓口に旧要綱の内容を尋ねにいっているのであるし、最終の売買契約締結日に本件買主の計画個数が三五戸から四〇戸に代わったのであるから、納付金の計算のし直しと代金の変更を申し出ることもできたであろうと思われるのに、そうしていない。また、そもそも売買代金を時価六億六〇〇〇万円(あるいは五億五〇〇〇万円)から納付金の額を引いたものとするというように定めることを持ちかけることもしなかったのである。
(四) 本件売買契約における価格決定要素と旧要綱
以上のように、原告が交渉を有利に運べなかったとしても、それは、交渉を巧妙に運んだEら本件買主側とあまりに素直にこれに応じた原告(本件売主側)との交渉の仕方という特殊固有の要素に起因することというべきであり、被告が旧要綱を設け、それに事実上の拘束力があると結果的に誤解させるに至らせたとしても、そのことは、右の価格決定について、条件的な因果関係のある要素とはいえても、相当因果関係がある要素ということはできないと解するのが相当である。したがって、被告にそのことについての相応の責任があるとすることはできない。
また、旧要綱に基づく納付制度について被告を刺激しては売買ができなくなると本件買主に言われるままに四億四五〇〇万円で代金を決定した原告の態度と原告の供述からすれば、原告は、時価がせいぜい四億八〇〇〇万円程度にとどまることを認識した上、納付金制度につき後日本件のような裁判を提起することで被告から賠償金名目で金銭の支払を受けられるとの自信を抱いていて(前記3(二)(8))、そのために売主側の説明に比較的素直に応じる態度を取ったのではないかとすらもうかがわれるが、この場合であれば、原告は時価と大きく異ならない四億四五〇〇万円で納得の上で本件売買をしたことになり、価格決定の影響度として最大のものは原告の判断であり、旧要綱の存在とそれに拘束力があると結果的に誤解させるに至らせたことがあったとしても、そのことは相当因果関係のある価格決定要素ということはできない。したがって、被告に何らかの責任を負わせることはできない。
(五) 相当因果関係の有無
以上のように、仮に原告が旧要綱に事実上の拘束力があると誤解したとしても、被告の旧要綱制定と原告が誤解に基づき結果的に思うようにことを運べなかったこととの間には、相当因果関係があるとは認められない。
5 本件要綱の改正の時期と売却代金との関係
(一) 原告は、被告が建設省通達を知ってから直ちに本件要綱を改正していれば、原告が損害を被ることはなかったと主張する。直ちに改正をしなかったことの不作為の違法行為があるという趣旨かもしれない。
確かに、平成七年一一月七日、建設省経民発第四五号・建設省住街発第九四号通達(建設省通達)が発せられ、公園等は開発区域面積の三パーセントかつ一人当たり三平方メートルを確保することを基本としつつ、中高層住宅において、一人当たり三平方メートルの基準を一律に適用することは過大な負担を課す結果となる場合が多いことから、一人当たりの面積基準を設ける際にも、開発区域面積の六パーセント以上の公園等の確保を求めることは適当でないとされた。ところが、本件要綱は平成九年一月一七日に改正され、新要綱においては、計画人口の算定に際し一戸に2.7を乗ずることとされ、納付金に換算する場合の指定単価が一律に一平方メートル当たり一五万六八〇〇円とされたほか、開発区域の面積の六パーセントが公共空地の上限とされたため、本件に当てはめると、公共空地であれば44.3平方メートル、納付金であれば六九四万六二四〇円が必要とされることとなった。
(二) しかし、仮に本件要綱が建設省通達の発出後直ちに改正され、新要綱による算定納付金が低額となっていたと想定しても、右4に見たとおりの事情があり、もともと本件土地の時価が六億六〇〇〇万円程度あるというわけではなく、納付金は新要綱の下でも任意の合意に基づくものであるから時価から納付金分だけ控除した金額で現実の売買代金が決定されるという論理必然性はなく、かつ、仮に合意納付金の額が低額となるとしても、その利益を直ちに享受するのは本件買主であるにとどまり、それを本件買主が本件売主にも及ぼすとの保障があるわけでもないので、本件の売買価格が直ちにその分だけ高額になるという関係にあるわけではない。また、建設省通達は、証拠(甲三、乙四)によれば、いわゆる開発指導要綱及びこれに基づく行政指導の行き過ぎを是正することを徹底する趣旨で、各都道府県知事に対し、県下の市区町村に周知させ、要綱の適切な見直しが推進されるよう配慮を依頼する趣旨のものであり、被告を含め、各自治体が、これに沿った趣旨で要綱を改正することを直ちに義務付けるものでもない。
よって、仮に原告に何らかの損害があるとしても、いずれにしても被告が本件要綱を直ちに改正しなかったことと原告の右の損害なるものとの間に相当因果関係があるとは認められないし、被告が本件要綱の改正を直ちにしなかったことにつき不作為の違法があるわけでもない。原告の右主張は理由がない。
6 まとめ
以上によれば、旧要綱に基づく納付制度は拘束力がないため、違法性はないし、また旧要綱に基づく納付制度を設けて公開していること自体に拘束力があると結果的に誤解させるに至らせる面があるとしても、本件において原告がそのことと相当因果関係のある損害を被ったとの事実は認められない。
三 結論
以上のとおりであり、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官岡光民雄 裁判官近藤壽邦 裁判官弘中聡浩)
別紙物件目録<省略>